商品研修〜おひつ・飯器〜|秋田本店の風景

秋田本店での商品研修、この日のテーマは「おひつ」。

ご飯を美味しく蒸らすおひつは、五寸、六寸、七寸サイズでで展開しています。継ぎ目のない一枚板の曲げ加工により製作したことで、すしおけなどのように乾燥による金輪の脱落およびうつわの崩壊のない構造を実現しました。飯切同様、秋岡先生と時松先生の指導のもと、ろくろ技術を使った隅丸加工が施されています。
飯切と共に、平成元年にグッドデザイン賞を受賞した当時、食器部門における木製食器での受賞は初めてでした。平成18年にはロングライフデザイン賞を受賞。

秋田のデザインは豊かな自然環境を背景にした、地域資源と密接な関係にあります。江戸期には木材が現在の大阪まで供給され、明治期には木材加工産業が隆盛を極めるようになりました。戦前戦後は県の工業指導所や市立工芸学校(現在の秋田公立美大)など、公的な機関が秋田のデザインの成長を支えるようになります。伝統工芸産業にも、時代に呼応するモダンなデザインが求められる中、いち早く実践したのが大館曲げわっぱです。1980年には大館曲げわっぱが国の伝統的工芸品に指定されたこともあり、業界全体の気運が高まっていたといえます。

おひつの販売開始は、1985年に遡りますが、その頃のデザインは今とだいぶ印象が異なります。

写真はお客様が30年以上ご愛用いただいた、貴重な初代おひつです。飯切と同様、おひつの誕生にも工業デザイナーの秋岡芳夫先生と、木工家の時松辰夫先生の影響は大きいです。時代のニーズやお客様の声を受け、改良を重ねてきました。

改良の一例として、「反り」を抑制する構造が挙げられます。
元々、おひつの蓋の(天板)は、木目の方向が違う板を互い違いにした、積層構造でした。しかし板の反りが顕著だったため、現在のような厚い一枚板に変更いたしました。
また、側板の幅を一分〜一部5厘ほど高くして、蓋をやや深くしました。デザイン改良の契機は、秋田のクラフト協会に所属していた頃、樺細工職人の製造工夫を聞いたことによるそうです。 木材の自然現象である反りは、避けられないものではありますが、これらの改良により、以前より相談件数が減ったそうです。おひつに限らず全ての商品は、現時点でベストな構造、デザインを製造・販売していますが、いずれまた改良をする可能性はございます。

自然資源に話題を戻し…大館曲げわっぱの主材料、天然秋田杉について、解説を。
天然秋田杉の定義は、樹齢150年以上とされます。
平成25年、資源保護を理由に天然秋田杉の供給が停止されてから、柴田慶信商店では、秋田より播種された岩手と青森、北東北の天然杉を使用しています。天然秋田杉はその生育環境から、全国の杉の中でもユニークな存在。
自然環境の中での過酷な生存競争の中、「栄養失調」状態の天然杉は含水量が少ないことで、水をよく吸収し、熱して加工する「曲げ」がしやすく、調湿効果にすぐれた材料といえます。

柴田慶信商店がつくるもう一つのおひつ…飯器(はんき)は、大切に保管してきた、木目の細かい天然秋田杉のみを使用しています。資源もストックも、いずれ枯渇する可能性があることを考えると…やむを得ず製作中止になる商品かもしれません。写真をご覧の際には、おひつ(左)と木目をぜひ比較してみてください。

豊富な地域資源を背景にした、秋田のデザイン。近年のグッドデザイン賞受賞作を見ると、人口減少や少子高齢化など、地域課題の解決を目指すデザインが増えています。2019年に賞をいただいた、わっぱビルヂングもその一例といえるかもしれません。

一つの完成形を誇るのではなく、改良を重ね続けることが、すぐれたデザインを生む行為なのだと実感しました。
自社のことだけではなく、地域資源とそれを背景にしたデザイン史を振り返り、未来を見据えながら、ものづくりを探求したい、そのように強く思います。

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