私のお弁当箱 その①

初めて買った白木の曲げわっぱ弁当箱をふと見ると、板がかなり薄くなっていました。

そろそろ、シバキ塗りの時期?

柴田慶信商店では、長年ご愛用の白木弁当箱へのシバキ塗りをお勧めしております。黒ずみが気になる方や、私のように板が薄くなってお弁当箱の強度を高めたい、という方まで。

白木製品のお化粧直し、ことシバキ塗りは、入社以来私の憧れでした。

「シバキ塗り」とは昔から親しまれてきた、柿渋を使った漆塗り技法のひとつです。柿渋を下地にし、朱合漆を塗り重ねています。杉は柔らかいため、漆の吸い込みが良いのが特徴で、その吸い込みを少なくする目的で下地に使われてきたのが柿渋です。柿渋には虫を寄せ付けない効果もあると言われています。良質な杉だからこそ、艶がでて、漆が飴色に変化したのち、木地の優美で端正な柾目が浮き上がり、「育てる楽しみ」を感じさせつつ目を楽しませてくれます。曲げわっぱの産地大館で、シバキ塗りを現在も続けるのは柴田慶信商店のみです。

いざ「その時」を迎えると、白木を惜しむ気持ちも、同時に湧き上がってきます。同じ金額で新しい白木弁当箱を購入しては?とも考えました。でも、でも、を繰り返す内に、入社以来の憧れを叶える時期は今なのかもしれない、という気持ちが自分の中でじわじわ広がり出します。

思い出すのは、お客様や尊敬する先輩の、暮らしの足あとが浮かび上がったお弁当箱。そして、お手入れの仕方を教えてくれた先輩の言葉。
使い込んだ杉に流れ込んだ漆が描くのは、木目に沿った仄かなグラデーション。

 

「いつかは、私も」
数年前の自分に後押しされ、ようやくシバキ塗りを決めました。

悩み抜いて初めて購入した曲げわっぱ弁当箱は、「白木手の平弁当箱被せ蓋」でした。「女性の手の平にも収まる」細身の楕円形そのままの名前が、ロマンチックだなと思ったんです。ファースト曲げわっぱ記念の証、名入れも今では点状の跡がわずかに残るのみ。

この蓋ですよー!

「慶信作」も同じく。

それもそのはず、タワシがけは入念に、連日は使わない!を必ず守ってきました。黒ずみはほとんど見えません。また、使い始めの頃は油染みが目立ちやすいので、お休みの日には油抜きをしたり(油分が多すぎると、シバキ塗りの際に漆を弾くことがあります)。木目をなぞる度に色んなことを思い出します。

使用頻度が高かったからか、保管環境ゆえか、蓋の反りはあまり目立ちません。外側にも十分にタワシがけをすることで、水分が行き渡り、反りにくくなるよ、という職人の言葉もお手入れの指標になりました。

振り返れば、このお弁当箱は、私のお手入れの「実験」にも付き合ってくれました。それはそれは手荒な実験に…。

入社してすぐ、慶信会長に言われた言葉があります。それはまだ私がまだ、自分の曲げわっぱを持っていなかった頃。

もちろん曲げわっぱを自分が買わなくたって、仕事は出来る。でも、一流の仕事をする人は、大抵自分のところの商品を使っているもんだよ。
…会長は覚えていないかもしれませんね。

勲章だらけのお弁当箱をひとしきり記念撮影した後、樺の綴じ直しをしてもらいました。少しキリッとしたような?

シバキ塗りは、朱合漆を塗り重ねる素朴で実用重視の塗りのため、「刷毛あと」や「縮み」、「たれ」また「道具あと」が出来る事があります。時間とともに澄んだ明るい色になり漆がなじんで来ます。

完成は約5〜6ヶ月後。私のお弁当箱は、どんな表情を見せてくれるのでしょうか。

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