曲げわっぱ弁当が結ぶ親子のつながり

15歳、思春期の一人息子がいます。日本人とイタリア人のハーフの息子。半分日本人であることがとても誇りで、自慢に思っている息子。私も日本の伝統文化であるお弁当を毎日学校に持たせることが、日本人の母としての役割と思って、朝早く起きてお弁当作りをしています。

思春期の我が子とコミュニケーションが足りていない今日この頃。口を開けば、早く起きなさい、早く行きなさい、早く宿題をやってしまいなさい、早くお風呂に入りなさい、歯は磨いたの、早く寝なさい。息子の返事は、今やる、はい、わかった。コミュニケーション不足の親子ですが、私は毎日曲げわっぱでお弁当を作ってそれを写真に撮りInstagramにアップしています。そして写真の横に息子への激励の言葉やシールを貼り付けています。登校途中のバスの中で、息子は私のInstagramを見ていいねを押してくれます。それが口うるさい母と言葉少ない息子の1日の中の唯一の優しい時間です。

昨年、日本に一時帰国した際、 長手弁当箱に出会いました。ずっと前から曲げわっぱが欲しいと思っていたので、安いものではありませんが、思いっきって買ってみました。お値段以上のクオリティーでした。軽くて、丈夫で、洗いやすくて、いい香りがします。職人さんの技がいろいろなところで光っています。長手弁当箱は、息子のリュックのポケットにすっぽり縦に入り、まるで息子のために作られたサイズのようでした。

当初、息子はこんなに高価なものを学校に持って行っては壊れてしまうのではないかと心配して、拒んでいました。でも、私は木のお弁当箱は呼吸することや、長い時間食物を腐敗から守ってくれるのが木のお弁当箱なのだということを言い聞かせて、ほぼ無理矢理持たせていました。しばらくすると息子は何も言わなくなりました。学校に行ってお腹が空いて、素敵なお弁当箱を開いたときに、みんなから覗かれ褒められるのが嬉しかったのでしょう。学校から帰るとおいしかったともまずかったともほとんど言いませんが、お弁当箱はしっかりリュックから早々に出して蓋を開け、「お母さんお弁当箱を早く洗って」と言います。

 長手弁当箱はその形状から立ったまま片手で食べるのにも最適です。見た目もスッキリとしてスマートで、それでもとてもたくさん入ります。イタリア人にもこんなお弁当箱でしっかりと栄養のあるお昼ご飯を食べて欲しいなぁといつも思っています。イタリアにはお弁当と言う文化はなく、持っていくのはパニーノ。ごくたまにプラスチックやガラスの容器に食べ物を入れて仕事場に持っていく人はいますが、学生はほとんどスーパーで買ったピッツァやパニーノ。給食がある学校もありますが、とてもおいしいものとは思えません。

やはりお母さんが作ったお料理をお昼も食べられるのが子供にとっては幸せではないのかな、と思います。ピクニックのお弁当と違って、毎日のお弁当は夕飯の残り物だったり、明日の朝のお弁当のことを考えて作る夕飯の献立だったり、冷蔵庫のお掃除だったり、日常に組み込まれるものがお弁当なのではないかな、と思います。そこには、お母さんの知恵だったり、子供が喜ぶ顔を想像して作る朝の幸せなひとときだったりします。

長年欲しいと思っていた曲げわっぱとの出会いが、息子とのコミュニケーションツールとなり、日本の素晴らしい文化を再確認する機会になるとは思ってもいませんでした。とても感謝しています。


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